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るひきこもり当事者にはよい効果をもたらすという仮説のもと実施を試みた。
5-4.ひきこもりピアサポーター養成の動向
これまでのひきこもりピアサポーターの養成にあたっては、KHJ全国ひきこもり家族会連合会認定
ひきこもりピアサポーター養成
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をはじめ、近年は当事者自らの実践活動としてひきこもり当事
者グループ「ひき桜」in横浜が仲間たちとひきこもりピアサポートに関する翻訳テキストを応用して
自主ゼミを運営する
(22)
など貴重な動向も見られる。
その一方で養成にかかわる制度的位置づけでみると、その業務を委託されているひきこもり地域支
援センターが厚生労働省の定める「ひきこもり対策推進事業実施要領(以下、本実施要綱)」に基づ
き「ひきこもりサポーター養成研修事業」を実施することになっている。
しかし本実施要綱には「ひきこもり本人や家族等に対するボランティア支援(ひきこもりからの回
復者や家族等によるピアサポート活動を含む)に関心のある者を対象に、ひきこもりに関する基本的
な知識(ひきこもりの概要、支援方法、支援上の注意点等)を修得させる」という文言の明記に留ま
り具体的なカリキュラムや詳細な内容などの提示はなされていない。あくまでも「ボランティア支援」
で「ひきこもりに関する基本的な知識の修得」に留められていることから、従来からある専門職のよ
うな資格養成ではないと理解できよう。
また本実施要綱にある「支援方法」については、どういう立ち位置や価値理念でどのような役割を
もって担うかによってその修得も変わっていくものと思われる。少なくとも「ひきこもりからの回復
者」と一言で述べてもひきこもり当事者は多様であり「居場所に出てこられるようになって人間関係
を『回復』したとしても、ひきこもりから『回復』したとは当事者は実感していない」
(23)
という指
摘からも理解できるようにじゅうぶん体調なども考慮しつつ特定のピアサポーターに負担がのしか
からないよう養成をすすめることが重要である。
さらに加えてピアサポーターの対象範囲に「ひきこもりからの回復者や家族等」と幅広く混在して
いる現状をどのようにとらえるかという課題もある。ピアな関係性は似たようなひきこもり経験を有
すると体験者ピアサポーターと当事者、あるいは似たような経験を有する家族ピアサポーターと家族
といった区分けで行うことが結局のところ望ましいか否かについてはさらに議論の余地があるが「本
人主体のリカバリーは当事者間のピアサポートや専門職だけの支援ではない。共生社会において誰も
が地域の構成員としてピアであり、包括的かつ多角的にアプローチする地域のピアサポートが必要で
ある」
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という指摘から当事者にとってこの垣根を越えていく感覚こそがリカバリーの一助になっ
ていくという考え方もある。
たとえば、ひきこもり経験を有するピアサポーターの体験に基づく語りやかかわりがわが子との関係
性で悩む家族自身のリカバリープロセスの促進作用に寄与していくことはありうるのではないかと思
われる。その意味で自分の中に壁をつくらない志向もまたリカバリーにとっては必要なのかもしれない。
6.実務者予定者研修会の開催
さて、本事業では手紙(絵葉書)に特化したひきこもりピアサポーターが担うピア・アウトリーチ
開発のための実務者予定者研修会(以下、実務者予定者研修会)を全国に先駆けてはじめて開催した。
数十人とは言わず数名でも関心を寄せるひきこもり経験者が増え手紙(絵葉書)を活用したピア・アウ
トリーチが地域において普及促進されることを願っての試行的実践であったが、実際、手紙(絵葉書)
を題材とした研修プログラムについてはモデルとなるべきものはなく、手探りによる計画であった。
幸いにも道内外には手紙を活用した実践者や理解と関心を示す有識者が少数ながら存在しており、
その代表者を招聘することで実現した。研修会開催はその直前に発生した9.6胆振東部震災の影響で
実施できるだろうかと危惧されたが当初計画より多少遅れて2018年9月29日(土)-30日(日)両