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な場合、ワーカーはなすべきことをしたと考えてケースを終了するということが多いし、それを当然

のことと肯定する傾向がある」とその課題を明らかにしている

(14)

 

これに対して、当事者にとって恐怖の種になりにくい手紙の方法として検討されるのが葉書の活用で

あろう。斎藤環によれば「友人からの手紙は有効か」の問いに対して家族が人為的に水面下で友人に働

きかけることには反対としながらも暑中見舞いや年賀状程度のものが定期的に届くようになることだ

けでも本人が「忘れられていない」という安堵感をもつかもしれないとその可能性を示唆している

(15)

同様に竹中哲夫も「返事を求めるような言葉は書かない。返事がなくても読んでくれると期待して(葉

書だけは読む当事者が多い)気長に続けることが肝要」と葉書を活用する意義を述べている

(16)

 

さらに家族支援から本人支援へのつなぎについては芦沢茂喜が家庭訪問する際に当事者本人に伝

える方法として手紙を活用する事例が述べられている

(17)

。芦沢によると「訪問したものの、本人に

会えないことがある。本人に会えない場合、私は定期的にその後も訪問を続け、自己紹介と次回の訪

問日を手紙に書き置いてくるようにしている」という。そして手紙には「〇〇さん。体調はいかがで

すか

? 次回伺うときはお会いしお話がしたい」とは書かないで、たとえば「先日、〇〇というゲー

ムをやった。Youtubeなどにも動画がアップされていて、盛り上がっている。次回お持ちしたいと思

う」といったように当事者の興味関心を抱く書き方を紹介しているが、とりわけ若年層のひきこもり

事例としてすべての当事者に当てはまるものとは言い難い。また芦沢茂喜は、ひきこもっている在宅

の当事者とのコンタクトにおいて「往復葉書の使用等を試しているが、十分な成果を挙げることがで

きていない」ことも併せて実践報告を行っている

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。このことからも面談を意図した誘導的な「返

信を求める行為」には一定の困難さがあり実施上留意する必要があろう。

 

さらに近年は別な角度から手紙の手法が注目されている。中川健史は「封筒は新聞広告の白紙の裏

面を使ってセロテープで止めたもの、便箋は使い古した大学ノートのページ」を使ってSOSの手紙が

届くケースを紹介している

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。そこにはインターネット環境や携帯電話・スマートフォンもない生

活困窮世帯のひきこもり当事者の現実があり、手紙や広報誌などの紙媒体が外とのつながりを求めな

がらも、その手段がなく社会的に孤立している当事者たちにとって重要なツールになっていることが

報告されている。

 

 
5.手紙を活用したピア・アウトリーチ開発の実践 

以上の先行実践研究レビューを踏まえたうえで、本事業では電話や対面援助が困難な長期高年齢化

するひきこもり当事者のニーズに対応できるひきこもりピアサポーターによる見返りを求めない緩

やかな絵葉書(picture postcard)を活用したピア・アウトリーチ(peer outreach:当事者経験者

が在宅にいる当事者と緩やかにつながり合う)の手法を取り入れその開発に着手した。 

 

5-1.事業推進委員会の設置及び運営 

北海道内の当事者団体を運営する地域実践者12名による「手紙を活用したピア・アウトリーチ開

発事業推進委員会(以下、事業推進委員会)」を設置し年度内計5回開催して本事業にかかわる重点

事項を協議したうえで決定した。具体的には第1回事業推進委員会(6月3日開催)では実務者予定

者研修会プログラム内容及び役割の検討等について、第2回事業推進委員会(9月29日開催)では研

修会当日の会場設営準備及び担当役割等について、第3回事業推進委員会(9月30日開催)では、実

務者予定者研修を修了したピアサポーターの役割分担等について、第4回事業推進委員会(12月9

日開催)では、実践活動の進捗状況及び事業成果を客観的に評価する郵送調査票の検討等について、

第5回事業推進委員会(2月2日開催)では、回収された有効となる郵送調査結果の考察等について

話し合った。地域連携団体から委嘱した事業推進委員名簿一覧は、表-1)に示すとおりである。